2011年10月23日日曜日

キャビアはお好き?

先日、ランプフィッシュの卵を食べ、後味(だけではない)が悪かったので、今夜は正しくチョウザメのものを頂いた。現在のカスピ海では過去の乱獲により実質的にチョウザメの禁漁らしく、昔の私の様に一度にベルーガ、セブルーガ、オシェートラを食べ比べる訳には行かない。現在、主に手に入るのはアメリカ産のバトルフィッシュ(チョウザメの一種で三越ではセブルーガとほぼ同一との説明があった)、または養殖のチョウザメなのだ。今回はアメリカ産を試す。食卓には他に、シャンパーニュの代わりにパーカーポイント高得点のメキシコ産のスパークリングワイン、そして、キャビアに合うとされるフレッシュなチーズ「ブリア・サヴァラン」を初め、ロジュレ(白カビチーズ)、ピエダングロア(ライトなウォッシュ)。これに、ソーセージとサラダ。メゾンカイザーとドミニクサブロンのパンが並ぶ。
さて、アメリカ産のキャビアは、小粒ではあるがわずかに緑がかった薄いグレーの中に黒い点々が見える姿も、舌触りも、独特な香りも確かにキャビアであった。キャビアに合うとされるものはさまざまにあり、ブリア・サヴァランの他に、ブリニ、スモークドサーモン、ゆで卵など、色々言われるが、要は、紙の外箱に比べて過小でさらに上げ底極まりないガラスの容器からもその貴重性は明らかなのであるが、いかにその量を増やして大勢の客に食べさせるかということなのではないだろうか。私は、何に合わせてもその真価が分かりにくくなるばかりだと思う。私の考える一番の食べ方は、勇気を出してえいやとスプーンですくって一口に頬張り、卵の粒の決してプチプチとはじけず何ともだらしのない印象を伴いながらつぶれてゆく感触、そして、グニュグニュべたべたと舌にまとわりつく愉快でない感触を味わい、その感触そのままにキレの無い味と生臭い魚の油の匂いに集中するというものである。ここまで読んでいただいてすでにお気づきであろう。そう、私はちっともキャビアなんて好きではないのだ。・・・と言いつつ、私が無理に食べさせようとしたのが原因で「キャビアなんて不味いから要らない!」と言って小学1年生の息子が暴れテーブルに散乱したキャビアを一粒残らず拾って食べてしまうのが私なのだ。だって、高かったんだからさあ。布巾でサッサッてわけにはねえ。ですよねえ。

オフィスプロモ株式会社 代表取締役 古荘洋光

2011年10月13日木曜日

ワインの深淵

自分の誕生日にはフォアグラとソーテルヌと決めていたので今夜はその通りにした。他にエビグラタン、ランプフィッシュの卵、サラダ、バゲット、チーズ、タルトタタン、アールグレイ、それに嬉しいバースデイソング。成城石井で買ってきたフランス産ガチョウのフォアグラは今ひとつ満足感に浸れない代物で、これなら、自分でフレッシュのフォアグラブロックから作った方がずっと美味い。クリスマスにはまた作ろうと思う。

ところで、美味と美酒の組み合わせは色々言われるが今日の組み合わせは本来なら良いものであろう。有名な生ガキとシャブリ、キャビアとシャンパーニュという組み合わせは、単に高級な物同士の組み合わせでしかないし、むしろお互いを不味くしてしまう。この「食事に何を合わせるか」という話だが、一流ソムリエとされる田崎氏の持論に私は猛烈に反論したい。彼は、食材に含まれるエッセンスと同じ要素を持ったワインを合わせるのだ。例えば、カエルに石灰の様な香りがあるから、合わせるワインは石油香のあるリースリング、というのだ。これは、一見理論的に聞こえるし、説得力がある。しかし、これは客に薦めた高いワインに反論されないための彼なりの理論武装だと思う。私の意見は全く違う。「マリアージュ」というのは、全く別の種類のものが合わさって初めて生まれるものというのが私の考えだ。人間同士の「結婚」もそうかもしれない。それでは、濃厚なガナッシュのデセールに合う飲み物は何か。田崎氏の理論からすれば濃くて甘いココアということになろう。さて、それはいかがなものか。では、私の正解は何か。砂糖抜きのエスプレッソだ。もっと簡単に言おう。餡団子にお汁粉を合わせるか?緑茶でしょ?「全く違う者同士が出合いお互いを高めあうこと」。それが私の考える「マリアージュ」だ。そうでなければ、神は何故違う人間をこんなにも創造したのか。(私は無神論者なのだが。)

バブルの時代、ワインブームというものがあり、私も随分と飲んだ。私は何かに嵌ると、熱中し、その分野の頂点を体験し、納得し、冷却する。私のワイン探求は初めは名もなきボルドーシューペリュールから始まった。この時、今まで飲んでいたものとは全く違う風味、葡萄由来では無いと思わせる味に驚いたのだ(今では解明しているが)。そして、ボルドー、ブルゴーニュ、ソーテルヌに興味が湧き、しばらくバローロやバルバレスコあたりをうろうろとしてみたものの、ボルドーに戻りポイヤックやポムロールに捕まり、その後、一気に有名ワインを飲み比べた。ラトゥール、トロタノワ、イガイ、ディケム、クリュグ、ドンペリニヨン、ラフィット、パルメ、オーブリオン、ムートン、エシェゾー、グランエシェゾー、シャトーマルゴー、DRCリシュブールとロマネサンヴィヴァンとラ・ターシュ、ペトリュース、モンラッシェ・・・。この頃の私の夕食は、ビゴのルヴァンというパン、バター、ワイン一瓶、以上。その後、倒れ込むように就寝、という日々だった。
一番美味しいと感じたのは赤はシャトー・ラトゥール、白は、ドメーヌミシュロ・ムルソー・ジュヌヴリエール、飲むのに一番緊張したのは元町のフレンチレストラン霧笛楼で飲んだ1940年のボルドー・マルゴーのローザンガシイだ。コルクを抜くソムリエの手が震えていたのを今でも思い出す。

しかし、しかしなのだ。最近、チーズは同じ銘柄であっても、レストランで最高の熟成具合でいただくのと、スーパーで気軽に購入したのとでは全くの別物(カスタードクリームと消しゴム、香水と塩水ほどの違いだ)ということに驚いた事をこのブログにも書いた。だとしたら、私が飲み尽くしたと思っていたワインは本当の味だったのだろうか?私は思う。ワインは生まれ、よちよち歩き、成長し、成熟し、枯れ、死ぬ。それも同じボトルの中で。おそらくは、最高の輝きを見せるのは一瞬だろう。多くの女優がそうであるように。
開高健「ロマネコンティー1935」を読みながら、私はそこに登場する最高のワイン、ドメーヌ・ド・ラ・ロマネコンティーのラ・ターシュを飲んだ。その時は、そこに正に書いてあるにもかかわらず、思いもよらなかったのだが。

オフィスプロモ株式会社 代表取締役 古荘洋光







シャトー・ムートン・ロートシルトは毎年異なる画家によるラベル(1973年ピカソ、1988年キースヘリング等)が有名だが、この1993年のアートは アメリカでは販売の許可が下りなかった。幼児との性交渉を想起させるというのがその理由で、この年、アメリカでのラベルは白紙となっている。私がラベル買 いした唯一のワインだ。ムートンでは他に、1979年シャトームートンバロンフィリップ、1980年シャトームートンロートシルト、1993年ルセカンド ヴァンドムートンロートシルトをいただいた。繰り返し試したのは感動がなかったからだ。その名声の在りかを確かめたかったのだが、しかし、私には最後まで 見つけることができなかった。私には広告に長けたブランドをより厳しく評価する癖があるのかもしれない。





2011年10月9日日曜日

死の朝

ペパーやガーリックなど数種類のソーセージ、ラディッシュなどのサラダ、フルーツ、LE GROTTE REGGIANO LAMBRUSCO ROSSO SECCO(イタリアの赤のスパークリング)、チーズ数種類。此処の処、こんな食事が多い。チーズを美味しく食べるためのメニューなのだ。今宵のチーズは、ピエール・ロベール(写真左)、クロミエ・サンジャック(右)、そして、リヴァロ(中央)。
白カビのチーズに嵌り、少しずつ癖のあるチーズへ進んできたので、そろそろ強い風味のウォッシュが再び食べられるようになっているのではないか?と考えたのだが・・・。リヴァロはこのタイプのウォッシュだ。
私には、この10年間食べられないでいる物がある。それが、オレンジ色に熟成が進んだウォッシュチーズなのだ。それには、訳がある。オレンジ色に熟成したウォッシュチーズを口に含むと、私の前から楽しいはずの食卓が消え、冷たく暗く悲しい風景が見えてくる。それは、肝臓と腎臓を患い亡くなった朝の父の部屋だ。およそ10年前の真冬の朝、電話に出ない父の部屋をひとり訪ね、何度呼び鈴を押しても返事がなく、どうしようもない絶望的な予感の中、私は前の晩に本人から預かった父のキーを恐る恐る鍵穴に入れた。マンションの鍵の開く冷たく大きな音が響く。ドアを開け、靴を脱ぐ。カーテンが引かれたままの真っ暗な中、何度呼びかけても父からの返事はなかった。カーテンを開き、ベッドの方へ進むと、眠っているかのような父がいた。頬は冷たくなっていたが、まだ、布団の中は温かかった。救急車が到着するまで、父の顔を抱きしめ、懺悔するように話しかけた。
その時の匂いが今でも忘れられない。
救急隊員から父の死を告げられた。もちろん自分でも分かっていたのだ。父の死を頭で認識しながらも私は救急車を呼んだ。「父が息をしていない。」そう説明をした。自分で結論付けられなかったのだ。誰かにはっきりと言われるまでは父の死を認めることができなかった。
父の死からもうすぐ10年になる。時間が経過し、リヴァロを食べても、もうあの悪夢を見なくなっているかもしれない、そう思ったのだが駄目であった。私はおそらく、一生食べられるようにはならないのだろう。それは、私が父の死に責任を負っているという思いがあるからに他ならない。そして、そこからは一生逃れることなど出来そうにないからだ。

オフィスプロモ株式会社 代表取締役 古荘洋光

2011年10月6日木曜日

Macarons a la ganache/LA MAISON DU CHOCOLAT

フランスから空輸されているというこのミニマカロン。見た目よりずっとガナッシュがたっぷり入っていて満足できるのだ。コンフィチュールのマカロンは無く、全部中身はガナシュというのがここらしいのだが、それだけに、挟まれたガナッシュは流石といった味だ。
そうかと言って、自宅でこの味の再現に挑戦できないわけではない。マカロンもガナッシュも、我が家の本棚にはメゾン・デュ・ショコラ創設者であるロベール・ランクス氏のオリジナルレシピがあり、冷蔵庫には、アーモンドプードルも卵もチョコレートも生クリームもあるのだから。
・・・いや、今晩はやめておこう。

オフィスプロモ株式会社 代表取締役 古荘洋光

2011年10月2日日曜日

妻の誕生日



誕生日を迎えた妻のリクエストにより母と広尾のル・スフレでランチ。リンゴとカルバドスのスフレがお気に入りなのだ。ミートパイやキッシュも美味しかった。その後、明治屋とナショナル麻布でチーズや発酵バター、ソーセージなどを物色。銀座和光で、チョコレートケーキでは妻一番の好物ピエールジョゼフを求めた。
特別の日なので夕食にはソーテルヌを開けた。洗うのが面倒なのだがリーデルのこの本来ブルゴーニュ用とされているグラスでワインをいただくのが私は気に入っている。(食器洗いは私の仕事なのだ。)
この日の収穫は最高の状態のウォッシュチーズ、ピエダングロアが手に入ったことだ。このチーズに合わせるのならセーグルノアなどではなく、シンプルなバゲットの方が良かった。ご馳走様でした。

オフィスプロモ株式会社 代表取締役 古荘洋光