2017年2月1日水曜日

ワインバーO’hyoi’s(オヒョイズ)






本日、おヒョイさん(藤村俊二さん)が1月25日に亡くなったというニュースが流れた。・・・寂しい。

ニュースでは「西遊記」や「ぴったしカン・カン」、「ぶらり途中下車の旅」のナレーションなどが紹介されていたが、僕の印象は全く別のものだ。
僕にとってのそれは、ワインバーO’hyoi’s(オヒョイズ)のオーナーとしての藤村俊二さんだ。そこへ行ったことのある人ならぴんと来ると思うが、ニュースで使われた肖像写真の多くは藤村俊二さんが経営していらしたO’hyoi’sで撮られたものだ。この店、藤村俊二さんがイギリスにいらしたときに惚れこんだ大工に一度現地で家を建ててもらい、それをわざわざバラして船で運んだという。そして、再びイギリスの大工を日本に呼び、南青山のビルの中の空間に組み立ててもらったのだ。家具調度品、照明、ドアノブもすべてイギリスから運んだもの。そして、藤村俊二さんと交友の深い俳優、著名人などが数多く来店した。店の奥に向かうと左側にソファーの置かれた個室があり、そこにはそれこそ往年の銀幕のスターが揃って談笑していたものだ。幸運なことに僕が伺う夜には藤村さん自ら我々のテーブルまで毎回ご挨拶にいらっしゃり、帰り際にはお見送りまでしていただいた。ほんの一言。それに誰もがそれだけでファンになってしまうであろう微笑。フランスでパントマイムを学んだと伺ってはいたが、実父が有楽町の映画館スバル座やオリオン座などを持っていたスバル興業の社長だったというのは今日まで知らなかった。なるほど、そうだろうなと思う。店の趣味も微笑も。

僕が通っていた時代、あの時代、僕はこれはと思うひとをO’hyoi’sへ案内した。価値のわかる人もいればわからない人もいた。それでも良かった。僕は店を出るとお相手を助手席に座らせ、ほろ酔いでハンドルを握った。外苑西通りの緩やかなカーブに沿って車のライトが滲みながら流れてゆく。風が頭を撫で、都会なのにあの一角ならではの広く高くなった空をエキゾーストノートが渡っていく。あの店の床は木材が良かったから革底で歩くと心地よく響いた。あの靴音、良かったなあ。僕はせわしなく運転をしながらも、しばらくは静かな店の余韻を楽しんでいた。

8ミリ映画のスローモーションでも見ているような気分で、あの頃を、今夜は想い出してしまった。

おヒョイさん、ごちそうさまでした。ご冥福をお祈りいたします。


オフィスプロモ(株)代表取締役 古荘洋光